東京・三宅島:再生、イルカと 「漁場荒らし」を観光資源に 8/29 毎日新聞
http://mainichi.jp/life/ecology/news/20090829ddm012040066000c.html
三宅島(東京都三宅村)の沖にすみ着いたイルカの群れ。噴火の影響にあえぐ島を観光で再生したい人々にとって、それは自然からの貴重な贈り物だ。しかし漁師たちには、大切な漁場を荒らす「持て余し者」にも映る。陽光が乱反射する夏の海。島民の思いをよそに、イルカたちは悠々と泳いでいた。
「あそこじゃ」。漁船の操舵(そうだ)席で、案内役の漁労長(70)が数十メートル先を指さした。25日午後3時。三宅島・錆(さび)ケ浜港を出港して20分ほどで着いた「三本岳」と呼ばれる岩礁。6頭のイルカが船に迫ってきた。三宅島のダイビングインストラクター、田口周一さん(51)が船から海に飛び込む。イルカは田口さんのすぐそばまで近づき、周りをくるくると回った。
三宅島の南約18キロの御蔵(みくら)島。周辺には100頭以上のイルカがすみ、イルカと泳ぐ「ドルフィンスイム」がさかんだ。
そのガイドも務める田口さんは「イルカには不思議な魅力がある」と話す。
阪神大震災の直後、関西からの女性客が増えた。「命は不意に絶たれることがある。だから今、やりたいことをしておきたい。その一つがドルフィンスイムだというんです」
9年前の噴火後、若者でにぎわう御蔵島と対照的に、三宅島の観光客は半減した。田口さんは「イルカを観光客の呼び水にしたい」と考える。島のペンション経営者(46)も「新たな観光資源になる」と期待を込める。
だが、イルカは島ぐるみで快く受け入れられているわけではない。黒潮の通り道に当たる三宅島沿岸は、豊かな漁場だ。とりわけ築地市場で高値が付くキンメダイは漁師にとって、大きな収入源だ。「キンメ漁には腕がいる。深場に鉄の仕掛けを沈めて釣るんだ。それをあいつら食っちまう。おれたちにとっては敵だよ」。漁労長は肩をすくめた。
「イルカを保護しながら、漁業も守れるルールづくりができないか」。最近、田口さんはそう思う。「この島を支える観光と漁業を、両立させる工夫をしたい」。ひとしきり人間と遊んだイルカたちは、三本岳に打ち付ける波の合間に姿を消した。